「とにかく、大崎建設には正式に抗議します。それと詳しく事情も聞かなくてはね。あちらとはこの先の付き合いも考えさせてもらわないと。灯里ちゃんの方はどうする?出るとこに出る?」
副社長は私の顔を覗き込むように心配してくれる。

「・・・今回私はたいしたことをされたわけじゃないので、そこまでは・・・。ただ、厳重注意はして欲しいです」

大げさなことは望んでいない。今回はそれよりも事を荒立てないように済ませて欲しい。

これがもっとひどいことをされていたり、相手が同業者でなければ遠慮はしないけれど、同じ世界にいてあらぬ噂になるのは勘弁して欲しいと思ってしまう。
本当なら戦った方がいいのかもしれないけれど。

いや、いつもの私だったらあの場で戦っていたはずなのだ。
膝蹴り、ヒールでの踏みつけ、頭突き・・・

対処できなかった。
それよりも先に心のダメージを負っていたから。

ーーーセクハラ常務よりも
私の頭の中には一人の女の姿が浮かんでいた。

西倉恭香

あの人はどこまで私に嫌がらせをしたら気が済むんだろう。