「フォレストハウジングの皆さんはタクシーが何台必要でしょうか？」
櫂の問いかけに
「１台で結構です」私より先に下北さんが答えた。
もちろん、１台お願いして秘書の私が社長と下北さんの二人を送った後、自分のアパートに帰るつもりだったんだけど。

「僕んちここの近所だから妻に車で迎えに来てもらうから大丈夫。灯里さんは大和を頼んだよー」
黒い笑顔の下北さんになるほど、そういう事かと納得する。

酔った大和社長は結構面倒くさい。説教臭くなるのだ。
下北さんは1人で逃げるつもりだ。
今夜はご機嫌だから大丈夫だと思うけど、どうだろう。
全く、下北さんがずっと隣にいたんだからちょっとアルコールをセーブさせてくれたらよかったのに。

チラリと上目使いで下北さんを見ると、くすっと笑って視線をそらされた。
ホントにもう。あなた方は高校時代からの親友なんでしょうが。たまには社長の世話をしてくれたっていいんじゃない？

今夜も私は社長専属お世話係の役目を全うしなければならないらしい。
櫂を牽制するためにはもちろんその方がいいのだろうけれど。