奥さまの話の内容がかなり個人的なものだったからぎくぎくとしながらも、男性陣のテーブルとここは離れているうえに、あちらは業界談義で盛り上がっているから私たちの話を聞かれる心配はなさそうだ。

「あの、別に私と桐山さんは過去も現在もそんな関係にありませんから。それに、彼には昔から結婚する予定の恋人がいるはずですよ」
奥さまの大きな勘違いに訂正を加える。

「えー、やだ。そんな相手なんていないわよ。少なくとも3年前にうちに入ってからはいないんじゃないかしら」
けらけらと笑い出した。

なんだ?あの人のことは秘密にしているっていうんだろうか。
「いえ、たぶん、奥さまがご存じないだけではないかと」
「ううん、いないわよ。本人が言ってたもの」

どういうこと?

あの時、酷い言葉で私を遠ざけておきながらあの彼女とも別れたってことなんだろうか。

ああ、イヤな記憶がまた蘇る。