冷たいキスなら許さない

「うちに出入りしてる大手住宅メーカーのチャラいイケメン営業の男の子がいるんだけどね。うちの事務所に来てスタッフと雑談しながらあなたの話が出て」

私の話？私の知らないところで私の話？
あんまり愉快な話じゃない。表情に出さないように心の中で顔をしかめた。

「”最近厚木のハウジングセンターで見かける美女はフォレストハウジングの社長秘書でした。次に会ったら絶対食事に誘って、最終的にはモノにしますから”って言ったものだから、桐山君がかなりムッとしてね。
”灯里はお前みたいなチャラチャラしたヤツの相手はしないよ”って言いだして。いつもならそんな彼のくだらない話にのったりしないで鼻で笑ってスルーするくらいだったのに。
かなり怒っているし、しかもお相手は自分の知り合いだって言うし。その態度にみんな驚いたのよね」

奥さまの話の内容にしばし呆然。
私の遠く知らない場所で私に関して何か会話がされていたんだと思うとゾッとする。

「知ってるかどうかわからないけど、あなたのことは少し噂になってたのよ。最近業界で話題のフォレストハウジングには綺麗な子がいるって。
もちろん、新発田建設の社長があちこちで言い回ったせいもあるんでしょうけど。
フォレストハウジングも評判だったし、その上あなたの噂でしょ。イケメン社長と綺麗な秘書。しかも恋人同士だっていうし。噂にもなるってものよ」