冷たいキスなら許さない

「ホントに、あれが始まっちゃうと長いし、つまらないのよね」

私たちが移動するとすぐにデザートメニューを持った仲居さんがスッと現れ、やっぱりカメラがあるんじゃないかと疑ってしまう。

チラチラと周りの壁を見回していると、櫂と目が合いクスリと笑われてしまう。

また疑っているんだなと気が付かれ、バカにされているようで気分が悪い。
プイッと顔を背けた。

注文を取りに来てくれた仲居さんが淹れてくれたお茶に手を伸ばすと、向かいに座る東山氏の奥さまが
「本木さん、さっきはごめんなさいね。桐山君のことでからかうようなことを言って」
申し訳なさそうに声をかけてきた。

「いえ、その‥私たちが知り合いだったことは事実ですし・・・」
付き合っていたことやフラれたことには触れて欲しくはないけれど、今更全くの他人のふりをするわけにもいかない。

過去の知り合いーーこの人は私たちが恋愛関係だったってことまで知っているんだろうか?

「知ってると思うけど、桐山君ってあれだけの容姿だしすごくモテるの。でも、クールであんまり感情の起伏がないのに、このところやけに機嫌が良かったり、スマホを気にしてたり、落ち込んでたり。そりゃあ何かあったなって思うじゃない」
奥さまはクスリと笑った。