冷たいキスなら許さない

話が一段落したところで、準備されていた食事が始まった。

前回来た時とはまた違う料理が並べられる。今回もまた綺麗な彩りに上品な器、美味しそうなものばかり。
ただ、今日もこのメンバーでは残念ながら食事を楽しめそうもない。

イースト設計は本当にわが社のことを調べたらしく、手掛けた建物のことも主要スタッフのこともよく知っていた。光さんの大学の先輩がイースト設計にいるらしく、新発田建設の社長以外にもどうやら共通の知人がいるらしいことも分かった。

東山氏と大和社長は意気投合してお酒を酌み交わしている。下北さんと櫂は二人の邪魔にならないように気をつかっているのか最初こそあまり口を挟まなかったけれど、次第に話が盛り上がり、男4人の世界が出来上がっているようで全員楽しげだ。

心配していた大和社長と櫂も初めこそぎこちなかったものの話が進むにつれて時折笑顔になりながら話をしている。
ホッとするような微妙な気持ちだ。

頭の上を専門用語が飛び交い私にはちんぷんかんぷんだけど、にこやかにしている東山氏の奥さまにならってにこにこしながらただ時間が過ぎるのを待つしかないと覚悟を決めていた。

「本木さん、私たちあちらで甘いものでもいただきましょうよ」
それからしばらくして東山氏の奥さまが広縁の一人掛けソファーが二つ置かれた応接セットを指差した。

大和社長が目で頷いたことを確認して「ぜひ、お供させてください」と立ち上がった。
ここにきて初めて私の動きを目で追っているような櫂の視線を感じたものの今は無視するほかない。