冷たいキスなら許さない

「社長」
下北さんの声で止まっていた空気が流れ始めた。

「本木さんのことはともかく、この依頼に関して詳細な内容の確認をすることも必要かと。コストの話もありますし」

大和社長は下北さんにゆっくりと頷いて視線を東山氏に向けた。
それを見た櫂が素早く卓上にパソコンとプロジェクターをセットして和室の白い壁に図面が投影される。
今回、東山氏がデザインしたものだとわかった。近年は海外からの大型発注も多くて国内の住宅の設計をすることはまれだと聞いている。
これはそれだけ特別な仕事なのだ。

それから小一時間程ディスカッションが続き、それが終わる頃には大和社長の表情もいつもの仕事に取り組む情熱的なものに変わっていた。
本当は純粋にイースト設計と組んで仕事がしたかったんだろう。
私という存在のせいで社長に嫌な思いをさせてしまったことで胸がずきずきと痛む。

社長の表情を見る限り、この仕事を受けることに決めたのだと思う。

これが成功すればフォレストハウジングの名前が売れることは間違いない。
けれどそれは今後も櫂と顔を合わせる機会があるということ。この場にいる人たちにわからないように私は心の中で大きくため息をついた。