「・・・他人行儀だな」
櫂はビジネスモードを解いたらしい。砕けた口調に変わった。

「当然です。他人ですから」
幸い辺りに人影はない。
櫂はちょっとむっとしたようだったけれど、そんなこと関係ない。

「俺たちのこと、社長に知られたくなかったからか?」
櫂の口から見当違いな突っ込みが入った。

「は?社長なら知ってるし。私たちが知り合いだったことも付き合っていたことも」
もっと言うなら棄てられたこともね。でも、さすがにそれは黙っていた。

捨てたとか捨てられたとか社内で使う言葉じゃない。

「ああ、そうらしいな」

え?!

何てこと。さっきの間に私の話もしていたってことなのか。
真っ青になったであろう私の顔をじっと櫂が見つめる。

「森社長に今回のイースト設計の依頼は灯里がらみなのかとストレートに聞かれたよ」

「・・・で、どう答えたの」

「ここを含めて3社提案した。ここに決めたのは施主と東山さんだから。俺が全く関与していないと言えばウソになるけど、決めたのは俺じゃない。あとは木曜日に聞くといい」

「じゃあな。今日はこれで帰るけど、また連絡する」と櫂はエントランスから出て行った。

私はというとお辞儀をすることも忘れて立ちすくんでいた。