それから15分ほど過ぎたところで二人は応接室から出てきた。
その表情から会話の内容は読み取ることはできない。私とはひと言しかやり取りしていないけれど、櫂は社長に私との親密さを疑わせるに十分な笑顔を見せたと思う。
社長には櫂との関係を話してあるのだから、変な意味で私が困ることは全くないのだけど。

「灯里、お客様をお見送りして」
「ハイ」社長に呼ばれて席を立った。

「本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。では、来週木曜日によろしくお願いします」櫂は社長に一礼している。

「ええ、こちらこそ。東山さんにお会いすることを楽しみにしています」
社長の言葉の区切りを見て「どうぞ」と櫂を廊下に誘導する。

このままエントランスに誘導したら終わり。
ここがオフィスビルならエレベーターまで送れば済むのに、残念ながらここは二階建てでおまけに応接室もオフィスも一階ときている。
エントランス出口までお見送りだ。

「木の香りのする素敵なオフィスだね」
隣に並ぶ櫂が話しかけてきた。
「はい。ありがとうございます。当社自慢の木材を使っております」
受付で鍛えた笑みを浮かべて返答した。