車に乗ると、社長が大きくため息をついた。
「ずいぶんと態度が違うって自覚してるか?」
「え?うーん、ちょうど区切りが悪かったから。でも、お母さんの気遣いを無駄にしちゃいけないし、お母さんのお料理はおいしいし」

「ま、灯里が楽しければいいけどな」
いいけどなと言いながらチッと軽く舌打ちしてるよ。子どもか。

「夕べ、社長が泊まってご両親とも喜んだんじゃないですか?ずいぶん久しぶりでしょう」

厚木の支社ができて1年。
立ち上げからほとんど下北さんが動いていて社長は必要な時に顔を出す程度。
それもほとんど日帰りするから厚木のご両親の家にはあまり顔出しもしていなかったみたいでお母さんが寂しがっていたのをよく知っている。

「喜んだかどうかはわからん。昨夜は『どうせ泊まるんなら灯里ちゃんも一緒に連れてくればいいのに。チビ達は上手に灯里ちゃんを引き留めてくれるのにあんたはダメね』って言われたぞ」