俺は、新城 葵威。金髪のピアス、いわゆる不良というやつか?
俺がこうなったのには、理由がある。俺には、大嫌いな父さんがいた。すぐ威張る、余計なことで怒る、すぐ当たる、そんなことをされて嫌いにならないわけがない。
そんなある日、俺は、遂に家出しようと考えた。俺の姉にも、俺の妹にも、父にも、母にも言わないで家を出た。
そこで、不良のグループに絡まれた。
でも、別に良かった。相談出来る仲間が欲しかった。
「お前、何してんだよ1人で。」
「俺は、家出してる。」
俺よりもはるかに身長の高い男子に言われた。
「なんか、悩みねーのか?」
「俺らは悩み相談部だ。」
何言ってんだこいつら。そう思ったけど、いつの間にかスラスラ話し始めていた。
お父さんのこと。学校のこと。全部全部。
1日目は泊まらせてもらった。
それから、髪の毛を染めた。
ピアスの穴を開けた。

これが不良(ヤンキー?)の、始まりだった。

そして。
家出2日目で母から連絡が来た。
「お父さんがね、葵威探しに家を出てったまま、連絡がつかないの」
そのメールを見た瞬間、俺は、今まで送られてきてた父のメールを読んだ。
2日しか経ってないのに、130件にも及ぶ通知が溜まってた。
「葵威、帰ってきなさい。」
「葵威、どこ行ったんだ」
「葵威、今までごめんな。」
「葵威、家に帰って来たら、お父さんとたくさん遊ぼう」
「葵威、読んでくれないか?」
「葵威、お父さんが悪かった。」
「葵威、俺は、いつでもお前が大好きだ」
それが最後のメールだった。
全てのメールの文頭に俺の名前を入れて、何度も何度も送られてきていた。
なんでだよ。こんな時だけカッコつけて。
意味わかんねぇよ。
そして、勇気を振り絞って、電話をかけてみた。
プルルル、プルルル...
「もしもし?」
「お父さん!?」
繋がった。繋がったんだ。
でも、その次の言葉は予想はしていなかったことばだった。
「あの、あなたはどちら様でしょう?」
「俺だよ。葵威、葵威だよ!」
そして、さらに驚きの言葉が続く。
「新城さんですか。お父様お亡くなりに...」
は?は?は?は?
頭の中ごっちゃごちゃだ。
「お父さんが死んだ...?」
ほんとだったら嬉しいはずなのに。
大嫌いな父さんが死んで。

でも、悔しかった。ありがとうも言えないで、ごめんとも、言えないで。
最後に会いたかった。
俺は、泣き崩れた。家の方へ向かいながら。 大嫌いだったはずの亡き父を思いながら。


その全てが俺が今、こうなった理由の全てだった。


今日は入学式だ。昔から勉強は好きではなかったが、やらないとダメというのを知っていたから、一応やっていたため、高校には行けた。
俺には、なんでも話せる親友がいる。岡田 雷輝。そいつは俺みたいな感じじゃないけど、お互い相談に乗ったり、乗ってもらったりしてる。
「おはよ。」
「はよー、お前よく、高校受かったなw」
「まぁな。遊んでたっちゃ遊んでたけど、勉強もちゃんもしてたし、受かって当然じゃね???」
こんな強気で言ってる割に、どちらかと言うと出席日数が危うかった。
父さんが無くなってから、3ヶ月学校サボって不良仲間と遊びに出かけていた。
「お前は、昔から勉強出来たもんな。」
お前の方ができるだろ。
雷輝は高校入試、まさかの首席。俺が遊んでる間、いつの間に勉強してたのだろうか...。
「あれ?新城じゃーん。ここ、受けてたんだ!」
と、声をかけてくるのは、佐藤 明日叶。佐藤は、中学生の時の同級生。
「よっ。隣は誰?」
佐藤の隣に見たことない女子がいる。
「私?私は、楠木 柚葉です!明日叶ちゃんとはどーいうご関係で...?」
「中学の同級生。俺は、岡田 雷輝、隣は新城 葵威。よろしくお願いします」
こいつちゃっかり俺の名前言ってやがる。
なんて適当なんだ...。
「新城くんは、なんで金髪なのですか?」
疑問そうに聞いてくる楠木。
「俺が、1人の時助けてくれたんだ。」
「そうなんだ!いいお友達なんだね!」
「まーな。だから、誰か大切な人が、助けを求めてる時は、俺は、そいつの力になりたいと、思ってる。アイツらが教えてくれたみたいに。」
もう、これ以上人を亡くしたくない。
大切な人って分かってれば尚更だ。
気付いてからじゃ、手遅れなんだ。父さんみたいに。
そして、入学式を終えて、それぞれのクラスへと行く。俺は、ちなみに1組。雷輝は、3組だ。
席に座ると朝軽く喋った、楠木が隣にいる。
「あっ、新城くん、隣か!良かった、知らない人じゃなくて、なーんてねっ。」
正直俺も、喋ってた人でよかった。こう見えて、かなりの人見知りだから、雷輝がいないとなかなか話せない。
「宜しくな。」
「こちらこそ」

帰り。
俺は、雷輝と、待ち合わせして、電車で帰る。でも、そのまま家には帰らない。いつものもうひとつの家に顔出しに行くためだ。
「雷輝、部活入るの?」
会ってから、1分くらいの沈黙を、超えての質問だ。
「どうしようか迷い中ってとこかな。葵威は?」
部活すると帰りが遅くなる。そうすると家に寄れなくなるから...
「俺は、入んないかな」
「まー、そう言うと思った。」
何言うのかも把握されている俺。いつかジェスチャーで伝わる気がするよ。なんてな。

家に帰ると、中二の妹が家にいた。
「姉さんは?」
「彼氏と、遊んでるんじゃないの?ていうか、兄ちゃん。いい加減髪の毛戻せば?高校の校則大丈夫なの?」
大丈夫じゃなきゃ染めねぇだろ。
「別に、お前には、関係ねぇだろ」
そう言うと俺は、自分の部屋へ戻った。

次の日。俺は、自分の席に着いた。
「新城くん!おはよう!」
と、楠木が話しかけてきた。
「はよ。楠木って、俺のことを何も思わないんだ?」
2年前、髪を染めて学校に行った時は、みんなから、冷たい目で見られて、怯えられてたから、不思議なところに違和感を感じる。
自然と話せるのは佐藤のおかげかな。
「うん。新城くんは、優しい人って知ってるからね」
優しい...そんなの褒め言葉に過ぎない。それが分かってても、なんだか嬉しくなった。
「優しい...か。俺、髪の毛黒に戻そうかな」
理由はたった1つ。彼女が欲しいだけだけど。今まで、告白はされて、付き合うことしかなかった。けど、今度は、俺から、ちゃんと付き合いたい。そいつとちゃんと向き合いたいと思うんだ。
「私は、今のままで全然いいと思うよ!」
彼女はどんな顔で言ってるだろう...。逆光で全く見えないけど、俺は、髪の毛を染めないと決心した気がする。

授業終わり。俺は、3組に押しかけた。
「おーい、雷輝〜」
3組に佐藤がいるのかー。しかも雷輝の隣...だと!?確か、俺の記憶が正しければ、佐藤は雷輝のことが好き?だった気がする。
雷輝は、全く気づいていないようだが...。
「おー、わざわざありがとな。んじゃ、帰っか!」
イケメンで、頭いいとか、神ってんだよな、こいつ。
んな割に、何考えてっか分かんねぇけど。

「なぁ、葵威。」
「あぁ?」
「お前結構モテてるらしいな。羨ましいじゃねーか。」
は?今なんつった?モテてる?俺が?有り得ねぇだろ!普通、雷輝の方がモテるはずなのになぁ?
「雷輝、お前はモテないのかよ?」
「俺には、好きな奴がいっからな。」
初めて知ったわ。好きな奴いるって。
「そーか。なんか、相談あったら言えよないつでも聞いてやっから。」
「そんなこと言ってねぇーで、お前も、恋しろよ」
んだよ。こっちは相談に乗ってあげようとしてんのに。まぁ、そういう奴だからしょうがねぇか。
でも、確かに恋はしたい。でも、モテないのが現実。