その人は今日も必死になって自転車で坂道を登っていく。 『歳を取るとそれができなくなるんだよなぁ』 父さんより一回りは若いだろうその人の後ろ姿に、だけど父さんの言葉を思い出して声を出さずに笑ってしまう。 そっか。 あの人も怖いのか。 そう思うとなんだかおかしかった。 俺は自転車を押したまま丘までの坂道を登った。 登りきった先にはいままで通り一本の木が立っていて、他に誰もいない静かな空間があるだけだった。 いつも通り自転車を木の側に止めて、今日は息が乱れてないから空を見上げた。