別のお話。


だから記憶も理由も、自分のことすら分からずにここにいるのかもしれない。

だって、いまが無いのと同じならそんなの必要ないから。

そうだとしたら幽霊とはどんなに悲しい存在なんだろう。

いま隣にはシヅキがいる。

俺には見えている。

それなのにシヅキには過去も未来もそれからいまも、何一つ存在ないんだろうか。

シヅキの瞳がゆったりと俺を捉える。

吸い込まれてしまいそうなほど深い黒の、とても澄んだ瞳だ。

「やだ春人。そんなに見つめられたら照れるじゃん」

途端にいつものシヅキに戻る。

まあ、いつもっていってもまだ出会ってから一日しか経っていないけど。