____ガタッ、ガタンッ 、キーッ!

がくん、と体全体が揺れて、その振動で目を覚ます。最初の方は人がまばらにいた車両には、今は私しか座っていない。


それもそうか。電車がギリギリで通ってるとこ、こんな田舎に、人なんてなかなか来ないよね。


窓の外には、山とか田んぼとかの、たくさんの緑が、風に吹かれて揺れていた。


プシューっと、反対側から扉が開く音がして窓から視線をそっちに移す。


ぬるい風が体に触れた。


電車の中からホームへ降り立つと、やっぱり私以外の人はいなくて。でも、そんな静けさが好きだったりする。


暑いのはちょっと……いや、かなりイヤだけど。


もう一度プシューっと扉が閉まる音がして、電車が走り去っていく。私は背負ってきたリュックからスマホを取り出して、電話をかけた。


何回か呼び出し音がなって、ガチャっと受話器をとった音がする。


「もしもーし、おばあちゃん?」

「あらぁー!その声は夢結(ゆい)ちゃん?」

通話口の向こうから聞こえてくる声は、相変わらず明るくて、優しくて、思わず笑みがこぼれる。

「駅に着いたよー! これからおばぁちゃん家いくねー!」


会ったらまずお土産渡して、たくさんお話して、それからおばあちゃんの美味しいお料理食べて……なんて楽しみにしてたら。


「そーなの! でも夢結ちゃん、今からだと駅から家の近くまでのバスはあと3時間後よ?」

「っえ!? うそ!? うそうそ!?」


「おばあちゃん、嘘はつきません。」

うそだ、こんなに暑いとこで3時間も待たなきゃなんないなんて……。


ちょうどお昼時で太陽は真上、お腹も空いてるのにコンビニすらないし、お菓子も電車の中で食べちゃった。



これから3時間どうしよう……?



ひしひしと絶望感に襲われていたら、電話の向こうの、もっと遠くの方から誰かの声が聞こえた。一言、二言、おばあちゃんはその人と言葉を交わして、

「あらぁ! ほんと? ありがとねぇ!」

弾んだ声でそう言った。
そして、夢結ちゃん、と私を呼ぶ。


「おばあちゃんのお友達が、迎えに行ってくれるって! 」



あぁ、なんて素敵なお友達!



「ありがとう! でも安全運転でね! ちょっとくらい待っても平気だから!」

だって、おばあちゃんのお友達なんてきっと60後半から70代前半くらいでしょ? ちょっと心配になっちゃうよね。


電話を切って、眩しい空を見上げる。


(うーん! いい夏になりそ!)