それからしばらくして、私が白起の陣営で片づけをしていると、外から大きな物音が聞こえた。

私は不思議に思い、付近を歩いていた兵士に問いかけた。

「何かあったの?」




兵士は言った。

「大変ですよ。なんでも白起将軍が王齕様を処罰されるそうです。」




その言葉を聞いて私は頭を抱えた。

おそらく私のせいだろう。

王齕が白起の居ない隙に私に会った事がばれたのだ。




王齕がやったことは事実だ。

私に王齕を救う理由は無い。

でもこんな事で白起がその手を汚すことになるのは嫌だった。




だから私は陣営を飛び出すと、兵たちの話を聞き、白起の元へ向かった。

私が着くと、白起はちょうど王齕を斬ろうとしていた。




「やめて」

私は走ると、白起と王齕の間に飛び込んだ。




白起は言った。

「どういうつもりだ。」




私は言った。

「彼がやったことは事実です。ですが、私は怒っていません。どうか寛大な処置をお願いします」




白起は言った。

「ここでは俺が規則だ。俺はこいつを殺したい。だからどけ」




私はどく訳には行かなかった。なぜなら白起という男は人を殺した後必ず深く後悔するからだ。

私は私のために白起が苦しむのは嫌だった。




だから私は言った。

「分かりました。それなら王齕を殺す前に、私を殺して下さい」




白起は私の言葉を聞くと私をにらみつけて言った。

「本気か?」




私は答えた。

「はい。本気です」




すると白起は悲しげな表情で言った。

「そうか。俺はてっきりこの男が、お前を強引に口説こうとしたのだと思っていた。でも違ったのだな。お前は王齕に惚れていたのか」




(はあ?)

私は思わず本気できれそうになった。

当たり前だ。

私がこんな行動を取ったのは白起のためである。

断じてそこの汚いおじさんのためではない。

しかし、本質的に自分に自信のない白起はそんな事にも気付けないのだ。

私は頭に血が上った。

そして興奮状態のまま叫んだ。

「そんな訳無いでしょ。私はね。私のためにあなたの手を汚したくないの。私のせいであなたを傷つけたくないのよ。」




そして私は呆然とする白起の胸倉を掴むと、背伸びをして、白起に口づけをした。

しばらく口づけをした後、唇を離すと私は言った。

「これ、私の初めてだから。これが私の答えよ」




白起は返事もせず呆然としていた。

私は今更になって自分のした事に気付いた。

そして驚いた。

私は白起の事が好きなんだろうか?

頭の中でそのような思いが巡り耐えられなくなった。




そして思った。

きっともう王齕は大丈夫だ。

取り敢えず逃げよう。

私はそのまま走って、陣営に戻ったのだった。