足を一歩踏み出した、それ即ち敵陣に足を踏み入れた事と同義である。
「ぐっっ!」
凄まじい風圧が勇者を襲う。
しかし勇者はすかさず傘と言う名の障壁を展開した。
「ふははっ!これしきの事で怯む我ではないぞ!」
余裕を見せたのもつかの間、障壁はわずか5秒で粉砕された。
なんと傘がひっくり返ったのである。
ビニールは飛ばされ骨組みはもはや原型がない。
修復は不可能である。
「なかなかやるではないか。」
態勢を整えるべく一度引き返す事を考えたが勇者はここで重要な事に気付いてしまう。
お腹が空いたのだ。
家に引き返しても口にできるものは何もない。
だとすれば進むしかないのだ。
ここから一番近いのはミスタードーナツ。
勇者は目的を好奇心からミスタードーナツをテイクアウトして無事帰還する事に定め直した。
彼は勇者である。
すでに風に敗した彼であるがなんとしてもミッションを諦めないのが勇者たる者の責務なのだ。
「いいだろう。この試練受けて立つ!」
勇者はニヤリと笑うと風を切り裂くがの如くまた一歩前へと足を進めた。