ーーー……ねぇ、気づいて。


きっと、私の気持ちは君には届かない。

意地はって、言い合いばかりして。

けどそれだけでもう、ドキドキしてるんだよ。

だからね、早く気づいて。




***




きっかけは、なんだったっけ。


「ちょっと、ピン球ちょうだい。」

休憩中体育館の床に散らばっていたピン球を拾っていた私。
その時、少し上の方から君の声がしたんだ。

「えっ…あ、はい。」

私が持っていたピン球を君に渡すと君は少し可愛げがある笑顔を見せて「ありがとう」と言って戻っていった。

私、高橋 理沙(タカハシリサ)はこの高校の卓球部に入って4ヶ月が経とうとしているところだった。

中学の頃はバドミントン部に所属していて、ラケットを扱っていたからラケット系なら大丈夫かなと思い、卓球部に入った。

ただ、私は初心者でラケットの長さがバドミントンと違うものだから全然打てない。

台から少し目を離して、ちらりと横を見ると君は1人で練習している。

あぁ、もういつの間にこんなに惹かれるようになったの。

同じ部活で同じクラスの君。

クラスでは全く喋られないけど、部活は喋れる。

だから、私は部活の時間が1日の1番の楽しみだ。




***



「えっ…、パネル?私が塗るの?」

ある日の放課後、夏休みも終わり文化祭の準備に取り掛かっていた時だった。

私のクラスでは、カフェをするみたいでそのクラスを彩るパネルの色塗りを4人でやってほしい、ということだった。

「無理だよ…。私、めっちゃ不器用なのに…」

このパネルの色はこのカフェの印象を決める1番重要なもの。

そんな重要なこと私には到底無理な話。

けど…

「あっ、えと高橋さんと須恵さんと植村くんと竹内くんでやってね」

竹内くん…と、するの?

「じゃあ、よろしくね!!」

私の目の前の子は別の準備があるらしくさっさと目の前から消えていった。

その様子を私はぼんやりと見ていた。

だって、竹内くんと、私の好きな君とするんだよ。

余計に無理だよ…。



***


「そうだ。今日の部活休むって言わないと。」

パネルを床に並べて色を塗る準備をしていると竹内くんが言った。

「??竹内くん、来ないの?私、行くのに…」

少し意地悪して聞いてみる。

ほんとは、来て欲しいんだけど、そんなことは言えない。

「行かないよ。文化祭の準備のが楽しいし!!」

なんて、笑いながら言う竹内くん。

「じゃあ、私が先生に言っとくよ。竹内くんは文化祭の準備が楽しいって言ってたので来ません!!って」

「おいっ!高橋!!やめろよ」

また笑って言う竹内くん。

はぁ、私も意地っ張りすぎだよ。

素直になりたいのに。

好きな君の前だとどうしても素直になれないんだ。



***


黙々とパネルを塗る。

ピンクの次は、水色に取り掛かる。

さっきまでは、みんなでワイワイやってた。

だから、楽しかったのに。

竹内くんは、作業を離れてクラスの女の子と談笑中。

はぁ、楽しくない。

むしろ、見たくないよ。

知ってるよ。

竹内くんは誰とでも仲良くていっぱい色んな人と喋ること。

この前まで夏休みだったから学校に来るのは部活をするときだけ。

だから、勘違いしてたんだ。

竹内くんは私といっぱい喋ってくれるって。

でも、違うよね。

いろんな人と喋りたいよね。

そんなこと、普通だと思う。

けど、私って心狭いのかな。

私以外の女の子とそんな楽しく喋ってほしくないの。

ああ、そんな笑顔見せないで。

お願いだから、気づいて。

私の気持ち。

けど、進めないよ。

君は同じクラス。

ましてや、同じ部活。

もし、好きと言って今までの関係が崩れたら嫌だよ。

だから、言わないよ。

けど、私にだって限界はある。

だから、早く早くお願いだから

竹内くん。

私が君を好きだってこと、気づいてよ。













色が乾いたパネルの上に透明の雫がひと粒、ポタリと落ちた。



END