あ、まずい。

そう思った私はこのやり取りを続けるのが怖くなって、咄嗟に「ちょっと友達との約束忘れてた」と言って彼の胸を強く押し返すと、あっさり身を引いた彼の前を通り過ぎ、部屋から走り去った。

隼太は追いかけてこなかったけど、さっきの彼の表情を思い出すだけで、本気で怒っていたってことだけは分かった。

「だって仕方ないじゃん。私はこういうの初めてなんだし……。」

一人でぶつぶつ言いながら早足で歩いていると、突然後ろから声をかけられ足が止まった。

「あら、亜砂果ちゃん?」

振り向くとそこに立っていたのは、

「隼太、君のおばさん!」

呼び捨てにするのも失礼かなって思って咄嗟に「君」を付けたからちょっと不自然な感じになったけど、そこに立っていたのは私が怪我をしたときにお世話になった隼太の親戚の女医のおばさんだった。

「久しぶりね。身体の傷はもう平気?」

「はい。あの時はありがとうございました。」

私が頭を下げるとおばさんは、

「元気になったならいいのよ。あれから心配してたから、元気そうで本当に良かったわ。」

と笑った。その笑顔がちょっと隼太に似てたから、ついその顔をジッと見つめていると

「隼太と何かあったの?」

と聞かれた。