「買ってくれるの?」

「君が望むなら」

どこか直感で本気を感じつつ、首を横にふる。

「20歳の時ね、成人式の着物いらないから、
 ヴァイオリンが欲しいって言ったの」

「うん」

「するとね、次の日、両親がこのヴァイオリン買って
 きてくれたの。
 
 ごめんねって、
 
 今まで、そんな高くないヴァイオリン使っていて、
 一度ももっといいの欲しいって言わなかったから、
 いいのかなって思ってたんだけど、
 やっぱり欲しかったのね、気づかずにごめんねって、
 
 お金あったの?と聞くと、

 父の車を買う予定のお金と、母の旅行のお金、
 私の成人式の着物の予定のお金、全部足したって、

 どうせ、もうすく退職だし、すると退職金入って、
 それから旅行行っても遅くない。

 美華のヴァイオリンは今しかないって、

 その時、私ぼろぼろ泣いちゃって」