「佐藤さんったら」

私は笑顔で返すも、
五十嵐さんはどこか本気と取ったのか、
私を抱きしめる腕を離さない。

「そろそろ行きましょう」

抱きしめられた腕を叩く。

「う・・・うん」

まだ警戒している彼を面白く思いながら腕を絡ませる。

まだ、ちらちら佐藤さんを見る五十嵐さんを、
ぐいぐい引っ張りながら演奏場所に向かう。

「冗談だからね、お父さんぐらいの年齢でしょう?」

「う・・・うん、こめん、分かっているんだけど、
 やはり内心穏やかじゃない」

「大丈夫よ」

五十嵐さんを引っ張る腕に力を込める。
すると、私を見つめ、やっとほほ笑んだのだった。