恐ろしく穏やかな、彼の声が聞こえてきた。


「あ、葎の彼氏」

先に口を開いたのは、葉那乃だった。

「葉那乃!何言って...」

急なその言葉が恥ずかしくなって、思わず声があがる。モテるの単語を知らないくせに、彼氏という単語は知ってるなんて...。

「え。俺葎の彼氏じゃないの?」

「そ、そうは言ってない......けど...」

決してそういう訳では無かったが、こう見えて付き合ってまだ日が浅い為、そういう言葉にはまだ慣れていない。

「まあどうでも良いや。葎借りてくね」

「どうぞどうぞ」

赤面していた私に何の断りなく、葉那乃の了承だけを得て、私を教室から出した。

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「...どこまで行くの?」

教室を出て、渡り廊下を抜けて、中庭に来た。かなりの距離を渡ったのに、まだ歩いて行くようなのか、止まる気配が無い。

「...聞いていい?」

ようやっと足を止めて、私には振り向かずに、そっと口を開いた、遥。急に止まるんだから、背中にぶつかっちゃった。

鼻を押さえながら、言葉を返した。

「なに?」