「葎」

「遥!...って、なんだ、お母さんか」


その日は、珍しくお母さんが来ていた。

「なんだってなによ」

困ったように笑うお母さん。紙袋を持っていたから、多分服を持って来てくれたんだと思う。

「もしかして、服持って来てくれたの?」

紙袋を見ながら問いた。お母さんも、私の見ているところを見る。そして、見るなり否定した。

「ああ、これ?違うわよ。アルバム持って来たの」

そう言い、中から、いかにも重いですよと言わんばかりのアルバムを取り出した。

「何でアルバムなんか持って来たの?」

「遥くんと見なさい、っていう意味を込めて」

それだけ言うと、お母さんは出て行った。
すると、入れ替わるように、今度は遥が入って来た。

「こんにちは。さっきそこで満里子さんに会ったよ」

満里子というのは、お母さんの名前だ。

「え、何か言われたとか?」

心配になり、聞いてみた。
遥は、

「葎、本当に遥くんが好きなの。絶対結婚してやってね。って言ってた」

その時に、初めてお母さんを恨んだ。変なこと言って...。



「.........遥、さん?」

名前を呼んだのは、遥が馬乗りをしてきたから。

「ん?」

「ん?じゃなくて!なにしてんの!」

そこまで言って私の腕を取り、顔を近付けた。

「ね、このままキスしたら、怒る?」