彼女は、私の手を取り、言った。
静かにリンカーンは死んだの。それは、運命?偶然?...どちらでもないというのなら、私は......
そこで言葉は途切れた。彼女の意識が、飛んだから。

真っ白な表紙に、『肖像の人』と、真ん中にかかれてある。私はそれを閉じ、横のデスクにそっと置いた。
その日は、雨が降っていた。嫌な雨音だ。...なんて、いつも思うのに、今日は何故だかその音さえも美しく思えてくる。

「葎」

名前を呼ぶ声がし、扉の方を見る。

「遥」

頬が自然と緩む。だって、大好きな人が逢いに来てくれたから。
遥も、優しく笑んでくれた。こうして、互いに名前を呼び、微笑み合うのは何度目だろう。

「はい、今日はこれ持って来た」

そう言って、本を置いたデスクに、バサッと少し荒めに置く。

「わ...マリーゴールド?」

黄色一色で彩られた花束は、瑞々しく色を発している。
まるで、先程摘んできたかのような様子だった。

「好きでしょ、マリーゴールド」