「葎ー。遥くん、来てるわよ」

「はいはーい」

-バタバタ

「行ってきまーす」

玄関を勢いよく出て顔を上げると、海をそのまま映したかのような、真っ青な空が広がっている。

「遅い」

不機嫌な声が、どこからともなく降ってくる。怒っているような声なのに、頬が緩んでしまう。

「ごめんごめん。ちょっと寝坊して」

「はい、俺を1分待たせたお仕置き」

そう、耳に届いた時、右手に温もりが感じられた。
てか、1分って...

「離したらだめだよ。まあ、離せって言われても、この手も葎も離さないけど」

コイツ、こんなキザだったっけ。
私は、思ったことを素直に言う。

「今のセリフ、なんかキザ」

なんて言いつつも、嬉しかったりする。

「本当、素直じゃない。まあどんな葎でも好きだけど」

赤裸々過ぎだし、顔色変えずに言うなよ。言われた方が赤面してしまう。

「...も、もういいから、学校行くよ」

「......大好きだよ」

不意に耳元で囁かれた言葉に、顔が火照る。恥ずかしさを隠すかのように、遥の手を引っ張り歩き出す。