元々私は、大先生の古本を目当てに来てるので、あんまりこのあたりは見るもんないな。
古い服ばっかりだ。
全部、タンスにゴンの匂いがする。臭い。

早々にクローゼットから出ると、まだ奥様は箪笥をいじっていた。
既にだいぶアクロバティックないじり方になっており、2段目左の引き出しと4段目の幅広の引き出しを2つ同時に閉めていた。
その時、パスっと空気が抜けたような音がする。
その音とともに箪笥の右下隅にある小さなはめ込みの装飾が板ごと抜けた。

「あら、なんかあいたわ」

さっきまでの訳のわからない必死さはどこへやら、勝手に外れたとでも言いたげな言い方をして、おもむろに空いた部分を覗き込んだ。

「奥様、どうされました?」

流石に声をかける。

「ねぇ、変なものを見つけたわ。」

奥様が手に持っていたのは、桐箱だった。両手に収まるくらいの大きさで、紫の紐で縛ってある。ちょうど、書付も何もない茶碗の箱のようだ。

「何か、宝物ですかねえ」

隠すようにしまってあったものだ。何かしら大事なものには違いない。