手が完成した時には手を叩き、足が組み上がったら踊りだす。夢の中の猿は愉快なものだった。
疲れや体の不調も猿の完成につれ、取れていった。
猿といる時間は文字通り夢のように楽しく、音楽に合わせて猿と踊ったり秘密の冒険に出たりした。

呪われているのではないかと思った事を忘れるような、夜に眠ることが何よりも楽しみになるようなそんな日々がしばらく続いた。

ある日突然、猿が夢に現れなくなった。
いつものように眠りにつくとそのまま夢は見ず、いつの間にやら朝になっている。
骨と皿は何時ものように何食わぬ顔で鎮座している。
元々、いつのまにか見ていた不気味な連作の夢だった。
在宅仕事で人との関わりも少ない生活の中、猿はこの家の彩りでもあったのだ、とそう思った。

見なくなって2週間ほど経ったある日の出来事だった。
奥様から電話がきた。
簡潔に内容をかいつまむと骨と皿を返してほしいとのことだった。
元々お孫さんが大先生から子供のときより、言いつかってきた物だという。
私も、タダで分けてもらったものでもあるし、何よりも未練の残骸である物を家に置いておきたくなかった。