「それに、蓮には彼女がいるからねえ。あたしの出る幕はないんだよー」








「あんなの彼女じゃないじゃん。蓮にくっついてるだけのくっつき虫でしょ」



呆れたようにみなみちゃんがため息をついた時、あ…と漏らした。


「なに?」



「出たよ、噂をすればってやつ」




「れーん!」




あたしの横を通り過ぎて、走って行く女の子が1人。


つられて後ろを振り返ると。


可愛く抱きつくあの子の姿があった。



「うわ、キモ」


なんて、みなみちゃんは軽く悲鳴をあげてたけど。


あたしはすごいと思うんだあ。


あたしだったら出来ないから。



「…あれ、蓮。移動なの?」



突っ込みに行くの?


って、コソリとみなみちゃんに言われたけど、気になったんだから仕方ない。


蓮と話してた教室前からここまでの距離は割とある。


でも、蓮が後ろにいるってことは。


「そうだよ。俺、次化学の実験で移動だから、一緒にいこうと思ってちょっと待ってろっていうつもりだったのに。お前話聞かないで行っちまうし。ここ以外に近道知らないし」


あー、そっか。

蓮、1人だけ化学とったもんね。


友達が誰もいないと嘆いていたっけ?



それから、面倒くさそうに抱きついていた女の子を引き剥がした。


「華乃(かの)、それはやめろって言ったろ」


「だってぇー、蓮がいたんだもーんっいいじゃん!なんで抱きつくくらいダメなの?」


「それは、俺が人肌が嫌いだからって何度も言ってるだろ」


あーそうだったね。


蓮はパーソナルスペースが広くて、初対面の人に触れられると無意識のうちに拒否しちゃうもんね。



だから、あたしもあまり触れないようにしてる。



もちろんあたしだけじゃなくて、蓮のことをよく知ってる人たちはそんなことしないんだ。