「まなか」
そんな声が聞こえた。
「おいで」
手招きして呼ばれる。
その声にスクっと立ち上がる。
あたしを見る、華乃ちゃんの笑顔が怖い。
田中君がいるから、あからさまにはにらめない。
でも、こんなあたしでも。
怒ってるのはよくわかる。
それでも、ここで行かないのはおかしい。
だから、だからあたしはその人の元に行く。
にこやかに微笑む……。
「蓮…」
そう、蓮の元に。
「うん?なに?」
蓮は優しい。
誰にでも優しいのかもしれないけど、その優しさが今はありがたかった。
「ありがと」
蓮は知ってたんだね。
あたしが困ってたの。
見てないフリして、ほんとは知ってて。
「別に、俺がそばに置いておきたいだけだから」
「はっ?」
「まなか、危なっかしいもんな」
「ちょっとーバカにしてるの?」
ごめんね、蓮。
気を使わせてごめん。
また、華乃ちゃんに小言言われるだろうに。
あたしと話すとよく言われると、前愚痴言ってたくせに。
それでも助けてくれるなんて。
でも、言いたいことの10分の1も言えないあたしは。
「ありがとう、蓮」
笑顔でいることしか出来ないんだ。