しばらくの沈黙。
何も言わない彼に、
またカバンを持って寝室を出ようとした。








「…納得したわ。」

まさかの言葉に彼を見る。


え?
彼の表情は、すごく優しい。



驚いて立ち尽くすと
近付いてきた彼に優しく抱きしめられる。


「恵理奈、ごめん。」


ああ、やっと気付いたらしい。
奥さんの気持ちも。

「…幸せにしてあげないと、だめですよ。」

震える声でゆっくりと伝える。


腕から出ようとするけれど、
彼の拘束が解けない。


「だから、ねえ。紘都さん。
もう、帰りますから。」



一層強くなった腕の力。


「恵理奈、好きだよ。」


「…え?」



まだ此の期に及んで、好き?



「何その顔?」
固まるわたしの頬を手のひらで包み
優しくてわたしの好きな笑顔の彼。



「…そっか、そういうことか。
ごめんね、恵理奈。」


一人で納得する彼。

わたしの頭はハテナでいっぱいだ。

「俺、独身。」


「…え?」

一応バツイチだけど。
って付け足して、
申し訳なさそうに苦笑い。






「だからさ、
俺の子、産んでよ。
一緒に育てよう。



俺と結婚して下さい。」