点。

ぷっくりとした黒い点。




同じ大学の、同じ学部

月曜の三限と、木曜の一限


講堂に座るとき、いつも右奥の後ろから3番目の席に座る。
決まって一番後ろの席を陣取る私から見えたのは、うなじに浮かんだほくろ。

ふんわりした猫っ毛からみえかくれするふたつの小さなマークを、退屈な授業中ずっと眺めている。


面白いわけでもないけど、皮膚に浮かんだ星座のようで見飽きることはない。


アナログな先生は、出欠を書く紙を前から後ろへ回す。

彼の友達がふざけて色ペンで彼の名前を書いたと忍ばせた声を聞いたおかげで、名前と学籍番号まで知ることができてしまった。



「谷川湊」
「滝沢俊也」


みなと、みな、はる、はると
しゅんや、としや


『あっおま、ふざけんな』
『なに?』
『みなとと俺の名前色で書きやがった。しかも俺ピンク』
『馬鹿か、おまえ・・・うわ主張すご』
『こいつのも変えとこ』


ピンクの文字は、めがねの彼


そしたら、青の角張った文字は

_____『谷川湊』


みなと くん 。








「あー、モテるよね、谷川君」

すらっとした骨格、黒髪からのぞくシュッとした切れ長の目、女子から定評のある喉仏からの鎖骨ライン


すべてに鋭いほどの繊細さがあるから、一見怖く見えるけど


気の知れた人に見せる笑顔は、子犬のように茶目っ気満点



「一年の時愛理と付き合ってたんだっけ?」
「いや、文化祭ののりでくっつけようとしたら逆に嫌われたんだよ」
「じゃあ紗理奈は?」
「あれはただの噂らしい」
「え、二個上の先輩にお持ち帰りされたんじゃなかった?」
「あったねーそんな話」


そんな彼には、恋愛話の尾がついて回る。


美しい人は光ばかり放つものだから、張り付く影も濃いみたいだ。


「なに、果凛

あんた谷川君のこと気になってんの?」

『やーそんなじゃないけど ほら、文化学の授業でいつも前に座るじゃない?だから、誰かなって思って』

「そっか、そうだね でも、それなら滝沢君の方が目立ってない?銀髪だし」

『うん、まあそうだけど・・・』


かみつきたい、と思った。

彼のうなじを。

白く、筋張って、筋肉でひくつく陶器のような肌を。

黒が浮かぶ首筋を。


なんて破廉恥な、変態か、自分、

赤らむほおを押さえたときには、彼のチャームポイントとささやかれるすべての魅力が目に飛び込んできた。


こんなことを言ったら、言葉選びを厭わない彼女たちは私をなんて馬鹿にするだろう


「あ、滝沢君ならインスタやってるよ?教えようか」

『や、多分接点ないよこれから』

「そう?ていうか谷川君のこと知らないとか果凛ウケるね」

「さすが社畜。バイトばっかだからでしょ」

『一応サークルだって・・・・』

「全然来てないじゃない。みんな心配してるから、バイトです~っていってあるけど、たまには顔出しなよ~」

『ありがと、千秋も愛理も』



紙パックの底から、ズズズっと音を鳴らすと

千秋は鞄を背負ってじゃ、と立ち上がった


「デート?」

「うん、映画見てくる」

『いいなあ』

「いいよぉ、彼氏
 いくらでも紹介するって」

『ありがと・・・って、なに?』

「滝沢君のアカウント 試しにフォローしてみれば? 何か起こるかもよ」


るんるんと軽い足取りで階段を降りる彼女は、実は二ヶ月前に失恋したばかりだったりする


恋の力はすごい

だからこそ、その力に翻弄される姿は滑稽で、無様だ

「・・・無敵だね」
『・・・だね』


テスト期間やら、繁忙期やらがかぶってしばらく開いていなかったインスタグラムを開くと、「滝沢君」からフォローリクエストが来ていた


彼のアカウントから画面いっぱい洒落た画像が散らばる


その中に、よく見知った後ろ姿を見つけた



[よく飲むんだぞ意外にこいつ]


『…ふーん』


ほら、こうやってすぐに

彼の写真をもっとあげてくれるかもとか期待して、認証してしまった
それから、フォローも


単細胞だよね、私も大概


『・・・ふふ、』


喜んじゃってさ

だからいやなんだ、恋愛なんて



____ピコン

[長期休業に伴う、解雇のお知らせ]


『・・・は?』
「うん?どうかした?」
『…なんか、来た』
「なんか?」
『うっそ・・・』

私の心の天気さえ変えてしまう。
コロコロ変わって、すぐに落ち込んで、さっきまでフワフワしてたのに



だから私はいつだって、片思いだけ

それだけで十分だって、決めつけていたのに

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