「悠李は……美術部だよね」
ホースの準備を終わらせた小雪は蛇口をひねる前にじーっと鉛筆でさらっとだけあたりを付けただけの絵を覗き込む。
ツインテールの片方が耳元に当たってくすぐったい。
「ひまわりだ」
まだ全然完成形じゃないのによくわかったね。
毎年、小雪の家もひまわり植えてあるよな。
頭で浮かんだそれをどうやって言葉に変換しようか。
思いつかなくて結局また鉛筆を持ちかえる。
今さら俺が交わす言葉なんかねーよ。
自ら望んで離れたんだ。戻りたいとか、思っちゃいけない。
小雪は少し離れて蛇口をひねった。
水しぶき一つ一つが反射してひまわりがきらきらしてる。
太陽の煌めきが眩しい。
自分のひまわりだけ映るキャンパスが寂しく感じる。
青さに君の瞳が映る。
白いワンピースに麦わら帽子。
いや、小さな学校の中庭で何妄想してんだ。
振り切れ振り切れ。
絵に集中しろ。
これ、夏のコンクールに出すんだよ。
美術は写真じゃない。ひまわりからイメージを広げろ。
触ったときの花の柔らかさ、太陽を浴びた色味、そして夏のひととき。

