「結城!」
まさか、と思った。
カチッと時計が急停止したみたいに動かなくなって、そこから針が逆回転していく。
青のきらめきと、甘いチョコレート。
光のシャワーと、世界を救うあの笑顔。
会わない、話さないと決めた人。
俺が傷つけてしまった人。
「ふふっ、驚いた?」
あの頃、揺れた髪はばっさり短くなってボブヘアが太陽に反射する。
「あれ、私のこと分かる?美織だよー、おーい」
「分かってるよ。ちょっと整理ぐらいさせて」
そりゃあ、美織だって頭良くて、小さい頃から塾通っててそこそこ受験ガチ勢なの知ってたけどさ。
そういえば美織の動向は全く知らなかった。
どこを目指しているのか、何がしたいのか。
先のない未来を語り合う勇気なんてなかった。
革靴のコツコツした音がふたつになる。

