「ねえ、結城んちのワンちゃん元気してる?」
「モジャのこと?まだ元気にしてるよ」
もじゃもじゃのモジャは俺が生まれた時から家にいる子で、けっこうおばあちゃんの歳になってもけっこう元気なほう。
そっか、美織もモジャが好きなんだっけ。
モジャの散歩に一緒に行こうとか言ってたまに放課後に遊んだこともあったわ。
美織は小学生の頃から超多忙人だからホントにたまになんだけど。
「モジャってさ、お散歩してるとき全然吠えなくて偉いよねー。だからモジャは大好き」
「美織って犬苦手だっけ?」
「そうだよー。結城が犬飼っているって言って、私が近所の犬に噛まれてトラウマだって言ったら、俺んちのモジャ超かしこいから一緒に遊ぼうよって言ってくれてやっと克服できたもん」
そうだっけ。覚えてないや、昔のことだし。
俺さ、思い出いっぱいあるんだよ。その中のたった一つなんてすぐに忘れる。
俺が忘れてしまった思い出、美織は全部大事にとっといてあるんだろ?今もこうしてあの時楽しかったねって思い出してはあの頃に浸ってる。
嚙み合わない。俺らは交わらない。

