「お父さんとは話せた?」

「うん」

 穂高は律儀にも派出所前から少し歩いた角で、私と別れたところで待っていてくれた。泣いたおかげで私の瞼はまだ腫れている。なので、この顔で彼に会うかどうか悩んだけれど、もう諦めた。

 私はぽつぽつと父と話した内容を穂高に伝える。

「お父さん、前より少しは家に帰ってきてくれるって」

「そっか。それはよかった」

 穂高は、まるですべてを見越していたかのように満足気な顔をしている。私は素直にお礼を告げた。

「ありがとう、穂高のおかげだよ」

「ほのかが頑張ったからだよ」

 その言葉を受けて確認するように空を見上げる。お昼過ぎに空に浮かんでいるのを見かけた青白い月は、今は黄金色に輝き西の方へと移動している。

 星が輝く暗さになり、雲がないので天体観測にはちょうどよさそうだけれど、こ照明などがほとんどない道を歩いて、山奥にある西牧天文台に向かうのは無謀だ。

 それは穂高もわかっている。ごめんね、と謝ろうとしたら突然、乱暴なクラクション音が辺りに響く。さらにはライトの眩しさに私は眉をひそめた。

 迷わず車がこちらに近づいてくる。とっさに穂高が私を庇うように肩を抱いた。すると車はスピードを落とし、私たちのいるところへ横付けする形で止まった。

 白い軽トラだ。どういうつもりなのかと不安で身をすくめていると、軽トラの窓が開く。

「おい。お前らこんなところでなにしてんだよ? 天文台には行ったのか?」

「宮脇さん」

 運転席から顔を出したのは、まさかの宮脇さんで、となると乗っている車は谷口さんのものだろう。それにしても、どうしてここに?