バイバイまたね、クドリャフカ

 役場前の派出所は、すでに明かりが灯っていて遠くから見てもよく目立っていた。近づく度に心臓の音が大きくなる。

 空は急速に闇を濃くしていき、かすかになびく風はすぐそばの海の匂いを運んでくる。波の音も届かず、蝉は活動を終わらせたのか静かだった。

 大通りに並ぶほとんどの店はシャッターが下りていて、犬猫の気配もない。もちろん人も。かすかに聞こえるのは虫の声だけ。必死に鳴いて、自分の存在を主張している。

 まだ、ここにいるんだって。

 派出所の入り口近くに来て、私の足が止まった。

 どうしよう。なにを話せばいい? なんて言えばいい? その前に、いないかもしれない。心臓が早鐘を打ちはじめ、私はごくりと唾を飲み込む。

 立ちすくんでいると、すぐ隣にいる穂高が心配そうにしているのが伝わってくる。大きく息を吐いて私は意を決した。

 彼の顔を見て軽く頷き手を離す。ひとり私は歩き出した。

 おそるおそる派出所の入り口に顔を出せば、中には同じ制服を身に纏ったふたりの警察官がいた。ひとりは父だ。

「お父さん」

 声をかけていいものか悩みつつ弱々しく呼びかける。すると私に気づいた父は大きく目を見張った。

「ほのか。お前どうしてここに?」

「ほのかちゃん?」

 父だけではなく、父と話していたもうひとりの警察官が私の名前に反応する。

 髪を短く刈り上げ、父よりも若い男性だった。どちらかといえば穏やかな雰囲気で、こちらに近づいて私を確認し笑顔になった。

「うわぁ、大きくなったね。うちの娘がもう五才だから高校生か?」

「あの」

 戸惑う私は奥にいる父に視線を送る。