バイバイまたね、クドリャフカ

 心の奥底にあった本音が溢れる。でも声に出せない。体調を崩しているから心が弱っているのかな。

 胸騒ぎが収まらない。吐き気とは違うなにかが体の中をかき回しているような不快感だ。

 きっと予兆だった。第六感とでもいうのか。

 この日、政府から地球に月が落ちてくるという発表があった。瞬く間に人々はパニックに陥り、人の多い都心部はとくに酷かったらしい。そして――

「自棄になって暴走した車が、ごった返す人たちの中に突っ込んだの。そこにお母さんたちもいて………」

 場所は私が話した神社前の大通りだった。ふたりとも即死だったらしい。

 遠くに飛ばされ、後から返ってきた母のバッグの中には、私の頼んでいたお守りが大事そうに入っていた。

 私がお守りなんて頼まなければ。私が体調を崩さなければ。私が……。

 月が落ちて世界は終わる。けれど、その前にうちの家族は壊れてしまった。

 世界の行く末を伝える大きなニュースを前に、母や妹の死はメディアに取り上げられることもなかった。それがいいのか、悪いのか。

 運転手はかろうじて命は助かったらしいが、重傷を負い不自由な体になったと聞いた。なにを望んでいたのだろう。知る気さえも起きない。

 混乱のさなか、ひっそりと葬儀が執り行われ、母と妹は白い灰になった。あの厳格な父が静かに泣くのを初めて見た。

 誰を、なにを恨めばいいんだろう。この感情をどこにぶつけたらいいの?

 それから父は以前にも増して仕事に力を入れるようになった。正義感や使命感に燃えていると、周りの人は口々に評する。

 でも、そうじゃない。きっとがむしゃらになにかをしていないと押し潰されそうだったんだと思う。それとも私と距離を取りたかったのか。