谷口さんに改めてお礼を告げ、私たちは谷口商店を出発した。もう日も落ちているので麦わら帽子はかぶらず、かばんに引っ掛ける。

 穂高はためらいなく私の左手を取ると、さっさと歩き出した。強引だけれど乱暴さはなく、疲れているのか口数は少ない。

 彼に手を引かれ大通りに戻り、迷わず進んでいく穂高になにも言わずついていく。しかし私はふとあることに気づいた。

「ね、ちょっと。西牧天文台ならこっちの大通りじゃなくて、東島公園のルートから行った方が近いんじゃない?」

 私の質問に穂高はなにも答えない。こんな初歩的な間違いを彼がするだろうか。

 なにかを避けようとしている?……それとも、別のどこかに向かっている?

 不安になって、もう一度同じ内容を尋ねようとしたときだった。

「ほのかのお父さんに会いに行こう」

 彼の口から信じられない提案が突然飛び出し、私は目を白黒させる。

「な、なんで?」

「ほのか、お父さんに言いたいことがあるんだろ。だから、ちゃんと話せ」

「なに言ってるの? 話したいことなんてないって」

 そう言っても穂高は足を止めない。繋がれている手も痛いくらい強く握られている。

「強がりも、嘘もいらない」

 穂高はこちらを見ようとしない。だから私はカチンときて彼に噛みついた。

「強がりでも、嘘でもないよ! なんで穂高がそんなふうに言い切れるの!?」

 彼は足を止め、ゆっくりとこちらを向いた。真剣な表情に私は思わず息を呑む。穂高は私から視線を逸らさずに告げた。

「ずっとほのかを見てたんだ。だから、わかるよ」

 ほんの一瞬、風も、海も、すべてが凪いだ。瞬きも呼吸も忘れて時が止まったような感覚に陥る。

 穂高は私の手を握り直した。

「今、話さないと後悔する。ほのかはまだ、話ができるだろ」