バイバイまたね、クドリャフカ

「おい」

 ところが不機嫌な声に理恵さんの肩がぴくっと震える。宮脇さんは怖い顔のままぶっきらぼうに言い放った。

「道路事情も不明だし、病院の混み具合もわかんねぇだろ。だから明日の朝にこっち出るぞ。早めに医者に診せた方がいいんだろ」

「よ、よろしくお願いします」

「兄ちゃん、軽トラだけど飛ばすなよ」

「ったく、わかってるよ」

 すっかり打ち解けた様子の宮脇さんと健二くんがやりとりし、二人の間に挟まれた谷口さんが『思い出した』と口にした。

 そのまま谷口さんの視線は理恵さんに向けられる。

「そういや石津さん夫婦があんたが生まれる前におおつき食堂に来たんだよ。奥さんが妊娠して、やっと体調が安定したから焼肉食いに来たって、嬉しそうだった。だから周りも、俺もおめでとうって声をかけたんだ」

 谷口さんは優しい顔をした。慈しむような、懐かしそうな表情だ。

「両親が亡くなったのは自分のせいだとか、ばちとか思うなよ。親は子どもが幸せだったらいいんだ。あんたも腹の子のことを考えてるんだからもう立派な母親だよ。……おめでとう、ご両親も喜んでるだろうな」

 理恵さんは両手で顔を覆い、何度も頷いた。『ありがとうございます』というのは嗚咽混じりで、でもしっかりと届いた。やがて理恵さんは涙目ながらも、柔らかく微笑む。