バイバイまたね、クドリャフカ

「なら健二くんには、是非うちの後継者になってもらおうかしら?」

 なんの後継者だろうと口を挟もうとしたら、谷口さんがやれやれといった調子で説明する。

「この人、医者だよ。国立病院でずっと産婦人科を担当していたらしく。今は自宅で助産院をしている」

 まさかの職業に私は樫野さんを二度見した。それは理恵さんも同じようで、まじまじと樫野さんを見つめている。

 ただ、初対面での樫野さんとのやりとりを思い出せば納得だ。たしかにまさに診察というか医師という感じだった。先生というところまでは直感的にあっていたらしい。

「安心して。まずはやっぱり大きいところで診てもらって、異常がないようならうちで面倒見てあげるから」

 どんっと厚くない自分の胸板を樫野さんは叩く。続けて神妙な面持ちになった。

「ずっと田舎の産科医不足が気になっていたの。出産するのにここから中心地まで来る人も珍しくなかったし、でもいざというときにそれだと困るでしょ? だから思い切って二年前に自宅を改装して助産院を開いたもの。ところが隕石やら、月が降ってくるわで閑古鳥状態で……」

 肩をすくめて樫野さんは笑う。私たちに泊まっていくようにと『部屋がたくさんある』と言ったのは、出産した人の入院用にと設けられたものだったというわけだ。

「たぶん国立病院なら機能していると思うわ。なんなら知り合いの先生宛に紹介状を書いてあげるから」

「はい。ありがとうございます」

「お礼はいいわよ、医者だもの。私もやっと自分の役割を果たせて嬉しいわ」

 気づけば、理恵さんの頬には涙が伝っていた。