バイバイまたね、クドリャフカ

 わずかに灰が舞い、小さくなった炭が音を立てて崩れる。

「命あるものは尽きる。それは月が落ちてこようが関係ないだろ。不意の事故や病気などで突然命を奪われることもあれば、長生きして自然と逝く者もいる。でも、みんないつかは終わりがくる。だから必死で生きるんじゃないのか?」

 そこで谷口さんが顔を上げた。遠くを見据え、その瞳は迷いがない。強い決意を感じさせた。

「俺はな、ひとつだけ決めてることがある。隕石降ろうが月が落ちてこようが、立派でなくても、情けなくても最後の最後まで必死で生きてやるってな。俺たちはなにかの命をもらってここまで生きてきたんだ。なのに自分から生きるのを諦めるなんて、頂いてきた命に示しがつかねぇだろ」

 水を打ったように場が静まり返った。ライトが落とされたように辺りもすっと暗くなる。

 いつも命と向き合ってきた谷口さんの言葉には強い信念を感じた。だから、こんなにも刺さるようにずっしりと響くんだ。

「……俺はずっと娘と会っていなかったんだ」

 ところが続けられた谷口さんの告白は、弱々しいものだった。内容が内容だけにみんなの意識が集中する。谷口さんはそっと健二くんに視線を投げかけた。

「健二の母親である聡子(さとこ)が、芸術家になりたいって言ったときは反対してな。んなもんになれるかって俺は頭ごなしに否定した。あんなのごく一部の人間しか成功しねぇ。苦労はして欲しくなった。できれば進学するなり、手に職をつけて欲しかったんだ」

 谷口さんは娘さんが中学生の頃に奥さんを亡くし、それからは男手ひとつで娘さんと向き合ってきたらしい。仲のいい父子だった、と谷口さんは物悲しく話す。