バイバイまたね、クドリャフカ

「相手の方は?」

 冷静に尋ねたのは樫野さんで、その質問で私は、はっとした。

「……同じ職場だった人で、両親が亡くなった際もすごく支えてもらいました。しばらくして妊娠がわかって一緒にこっちに来たんです。でも翌日に彼の姿は車と一緒に消えていて」

 絞りだすような声だった。なにかを堪えるような、痛みに耐えるような。理恵さんは肩を震わせながら続ける。 

「つわりもひどいし、私ひとりでどうしようって。ばちが当たったのかもしれません。私のせいで両親も亡くなって、この子にも申し訳なくて。もうすぐ世界は終わるのにこんなときに妊娠して……ちゃんと生んであげられないかもしれない」

 押し殺していた不安と共に理恵さんは吐露する。最後は嗚咽混じりで言葉が消えた。

 呼応するように私の心臓は握り潰されるように、ぎゅっと痛む。七輪の炭がバチッと音を立てて赤い色を宿していた。

 世界はもうすぐ終わるんだ――。

 暗闇に飲み込まれそうな自分を想像した。消えて、なくなってしまう。

「おめでとう」

 力強く明るい発言が私の意識をはっきりとここに戻す。理恵さんも顔をゆるゆると上げた。

 理恵さんの隣に座っていた樫野さんが椅子を寄せ、理恵さんを支えるように肩を抱いた。

「あなたひとりでよく頑張ったわね。つわりがひどいのはつらいけれど、いつかは落ち着くわ。そんなに自分を責めないで。大丈夫よ。まだ月が地球に落ちてくるとも、世界が終わるとも決まったわけではないでしょ?」

「ほぼ確定だろ。九十三パーセントだぜ?」

「でも七パーセントの可能性で助かる」

 樫野さんに横やりを入れたのは宮脇さんで、さらに穂高が間髪を入れずに静かな声で告げた。イラついた顔で宮脇さんが穂高を睨む。