「おう。兄ちゃん頼んだ!」

 それを聞いて宮脇さんだけではなく、谷口さんも微笑んだのに私は気づいた。なんていうか、言葉では上手く言い表せないけれど温かい気持ちになる。

「あの、すみません」

 そこで理恵さんが口を挟んだ。

「図々しいお願いだとは思うんですが、もし車を運転されるなら私も県庁のところあたりまで乗せていってもらえませんか?」

 県庁近くには国立病院がある。そういえば理恵さんは元々体調が悪くて病院に行こうとしていたのを今更ながら思い出した。

 確認するように理恵さんの皿を見れば、肉を食べた様子もない。

「理恵さん、大丈夫ですか?」

「どうした? どこか調子悪いのか?」

 私と谷口さんの声がほぼ重なる。理恵さんはその場にいる全員の視線を一気に引き受け、どこか居心地悪そうにしながらも、ぽつりと呟いた。

「実は私……妊娠してるんです」

「え、ええ!?」

 思わず椅子から立ち上がって叫んだのは私で、周りを見ればどう考えても過剰反応だった。

 でも、まったく予想もしていなかったので本当にびっくりした。それと同時に納得する。

 妊婦さんと接した経験はほとんどないけれど、つわりと呼ばれるものがあるのは私も知っている。どこか悪い病気でもと心配していたので少しだけ安心した。

 ふと我に返り、話の腰を折って恥ずかしくなりながらも、そろそろと椅子に座り直した。

 ところが理恵さんの顔はどうも浮かない。