「いえ、なにもなかったのならよかったです。しかし空き巣や喧嘩も増えています。皆さん、戸締りはしっかりしてください」

 警察官の顔を見せた後で父は私の方を見つめた。

「ほのか。遅くなるかもしれないが、今日は仕事を切り上げてくる。お邪魔にならないようここで待ってなさい。家まで送っていく。君もだ」

 最後は穂高を見つめて父は言った。有無を言わせない重たさを感じる。でもそれでは私たちの目的は達成できない。

 もっと夜にならないと星は見えない。とはいえ正直に話して父が納得してくれるとも思えなかった。

「私は……」

 言い返そうとしたものの言葉に詰まる。

「よかったらうちに泊めますよ」

 前触れもない助け舟は、樫野さんからだった。

「さっきもお話しした通り、部屋はたくさんありますから。みんなで集まっていた方が防犯の意味でもいいでしょ?せっかくの機会ですしお父様もお仕事終わったら、こちらにいらっしゃいませんか?」

「なんであんたが仕切ってるんだ」

 お約束のように谷口さんがツッコんだけど樫野さんはまるで聞こえてもいないかのように父と向き合ったままだった。

「いいえ。仕事がありますから。ほのか、迷惑にならないようにな」

「……うん」

 静かに答えると、父は踵を返してさっさと行ってしまった。複雑な感情を抱えながら父の背中を見送る。

 結局その場に理恵さん、樫野さんも加わり、行きずりといってもいい共通点がまったくないメンバーで七輪を囲む状況になった。