「こんなところでなにをしてるんだ。もう日も沈みそうだっていうのに」

「お父さんに関係ないでしょ!」

 私は突っぱねる。それは父の感情を逆なでするだけだった。

「関係あるだろ。だいたい、お前は」

「あの」

 ヒートアップしそうになる寸前で私たちの間に穂高が入った。視界には彼の逞しい背中が映り、続えて穂高は父に深々と頭を下げた。

「ほのかさんの高校の同級生で安曇穂高といいます。すみません、今日は俺が誘って彼女を連れ出したんです」

 意表を突かれたように父は目を見開いた。すかさず理恵さんが私の右隣にやってくる。

「それで私が体調を崩していたら、娘さんが気遣って家まで付き添ってくれたんです」

「いなくなったミケも探してくれたんだよ」

 いつのまにか健二くんも私の左側にしがみつくようにして主張した。

「孫が世話になった礼に、ここで夕飯をご馳走していたんですよ」

 締めくくるように谷口さんが現状を伝える。父は立て続けの勢いに押されてぽかんとしている。ややあっておもむろに口を開いた。

「店に不審者がいるという話は……」

「ああ。ちょっと知り合いに店の整理を手伝ってもらっていたんだが、なんせ初めてで棚を倒したりしてな。粗暴だがこのご時世、番犬にはいいだろ」

 谷口さんのフォローに宮脇さんが目を丸くして視線を送った。さらに樫野さんがつけ加える。

「ごめんなさい。私の勘違いだったみたいね。ほら、今はこんな世の中だから少しのことで怖くなってしまって」

 父は目を伏せて制帽を整え直した。