バイバイまたね、クドリャフカ

「知ってるって。あの裸でポーズを決めてる兄ちゃんの名前だろ」

 残念ながらそれはダビデ像で、ミケランジェロはその製作者の名前だ。私と穂高が吹き出すと健二くんは『なんだよー』と怒りはじめる。

「そっか。ちゃんと飼い主がいたのね」

 私たちのやりとりを聞いていた理恵さんは、安堵の声を漏らした。籠の中のインコと健二くんを交代に見る。

「この子、君に返すね」

「お姉さん、本当にありがとう!」

 感動の再会。でも私は信じられない気持ちだった。

 猫にさらわれたという時点で絶望的なのに、ミケは理恵さんに保護され、こうして元の飼い主である健二くんの元に戻ってきた。

「そうだ。お姉さんもよかったら肉食べていきなよ! ね、じいちゃんいいだろ!」

 谷口さんはトングを持ち上げ、『おう』と軽く返事する。宮脇さんだけが席に着いて黙々とお肉を食べていた。

「どうしてお肉が……」

「じいちゃんが牛を育ててるんだよ! 俺も世話、手伝ってるんだぜ」

 理恵さんの質問に健二くんは胸を張って誇らしげに答えた。それでピンと来たのか理恵さんが谷口さんを見た。

「もしかして……『おおつき食堂』をされていました?」

 肉を焼いていた谷口さんが手を止めこちらに顔を向けた。

「ああ。節子(せつこ)が、家内が元気なときにやってたんだよ。あんた地元の人かい?」

「はい。小さい頃、おおつき食堂さんによく両親とお邪魔しました。お肉がとても美味しくて、県外に出てもよく思い出してましたよ」

「そうか、それは有り難いね」

 谷口さんの視線は再び七輪の上に向けられる。一見、無表情に見えるけれど、微妙に口角が上がっている。嬉しさが隠しきれていなかった。