バイバイまたね、クドリャフカ

 口の中に広がる肉の美味しさに頬が緩む。味の違いがわかるような味覚は持ち合わせていないけれど、柔らかくてジューシーな肉本来の旨味が舌から伝わってくる。

 一切れでほくほくと私が幸せを感じている間、店を襲った男性は一心不乱に焼かれていく肉を次々に口に頬張っていた。

「で、おめぇはなんであんなことしたんだよ」

 一段落したところで、谷口さんが問いかける。あんなにひどい形相をしていた男性は今は憑き物が落ちたかのようだった。

 箸を置き、ぽつぽつと自分の話を始める。

 彼の名前は宮脇(みやわき)五郎(ごろう)さん、二十九歳。大学を卒業して全国的に有名な大手企業に就職したが、そこでの激務に体を壊し、退職して実家に戻ったんだという。

 西牧村のさらに東にある町出身らしい。療養を終えフリーターという立場で、気が向いたときに働きに出たものの基本的には家に引きこもりがちだったとのこと。

「そこで、あの月の落下騒動だよ。両親は変な宗教にハマって家に帰って来なくなった。家の食料もつきて頼れる人間もいないから、ふらふらしてたんだ」

 ばつが悪そうな顔をして宮脇さんは言い捨てた。スーパーは閉店している中、谷口商店の存在を思い出してやってきたのだという。

 空腹もあり、こんな状況だから店のものを手にするのに罪悪感はあまりなかったらしい。しかし今はそうでもないようだ。

 改めて宮脇さんを見ると、顔は怖いが雰囲気はそこまで尖っていない気がする。

「まぁ、民家襲ったり、誰かを傷つけようとしなかったのは立派だ。生きようとしたのものな」

 谷口さんは肉を焼きながら静かに告げた。そしてなにか言葉を続けたとした瞬間。