さりげなく穂高が私を背に庇うようにして前に出た。

 その様子を男性は薄気味悪い笑みを浮かべて見やると、私たちからふいっと視線を逸らし店内にさらに足を進め、中を物色しはじめた。

 そしてお菓子や乾物系の棚の前に立つと、乱暴にそれらの商品を開けて中身を頬張っていく。食べるというよりは、胃に押し込むといった感じ。手あたり次第だ。

 こういった光景は珍しいものじゃない。綺麗事だけじゃ今は生きていけない。もう慣れていたはずだ。

 しかし、目の当たりにするとやっぱり異様さが滲み出ている。

「それ」

「うっせー! 邪魔するならぶっとばすぞ。こっちはもう三日もなにも口にしていないんだよ!」

 わずかに穂高が反応したことに対し、男性は唾を飛ばしながら鬼の形相で激昂する。勢いで彼のうしろの棚が音を立てて崩れた。少ない商品が床に転がり盛大な音を立てる。

 男性の気迫もあって、私は止めるように穂高の背中のシャツを必死に掴んだ。

 彼がこちらに向かってくるんじゃないかと思い、気が気じゃない。歯の根が合わずに体が震えだす。

 商品なんてどうでもいい。それを食べて気が済むなら持っていくなりして、早くどこかに行ってほしい。

 そのとき店のドア越しに、ちらりと人影が写った。どうやらシルエットからして女性らしい。

 助けてほしい一心で目を凝らすと、なんと先ほど谷口商店までの道を教えてくれた女性だった。

 この際、誰でもいい。祈るように視線を送ると、彼女は中の異常さに気づいたのか、すぐにドアを離れ行ってしまった。

 絶望にも似た感情が体を支配する。今の地球ではこんなこと日常茶飯事で、誰だって厄介事に巻き込まれたくない。触らぬ神になんとやら、だ。

 でも当事者となってしまっては、見放された気持ちで泣きそうになる。