まるで狐につままれたかのようだ。とっさに受け取ってしまった薬を確認してみると薬品名が印刷されていた。たぶん本物だろう。

 あの女性の愛飲サプリなのかな。お節介というか親切な人もいるんだな、と素直に好意として受け取る。

「大丈夫か?」

 穂高に声をかけられ、急いで我に返る。気まずさもあって、私は彼の顔を直視できずうつむき気味になった。

「う、うん。大丈夫。変わった人だったね、びっくりしちゃった」

「そうじゃなくて」

 そこで帽子越しに彼の手が私の頭に触れる。

「貧血って言われてただろ。体調は? つらかったらちゃんと言えよ」

 貧血どころか一気に血が体内を駆け巡った。誤魔化すように私は返す。

「でも、そんな自覚症状とか全然ないし」

「自覚症状が出てからじゃ遅いだろ」

 間髪を入れずに返ってきた穂高の口調は珍しく厳しい。そこで彼は調子を取り戻すためにか、ひと呼吸忍ばせる。

「あの人の台詞じゃないけど、自分を大事にしろ。ほのかは女の子なんだから」

 くらくらするのはどうしてなんだろう。本当に貧血なのかな。それとも暑さのせい?

 頬が熱くなり、心臓が強く打ちつけるのを私はぎゅっと堪えた。どちらともなく足を進める。

 さっきの理恵さんに対する態度といい、アメリカはレディファーストの国だから穂高にとって女性を大事にするのは当然というか、なんというか……。

 頭の中で必死に理論づける。すぐそばに本人がいるんだから聞けばいいのに。でも聞けない。私は彼にとって少しは特別なのかな。

 頭の中で飛び交う思考を一度沈め、今は谷口商店を目指すことに専念した。