バイバイまたね、クドリャフカ

「ちょっと、あなた」

 しかし、まさか呼び止められるとは思ってもいなかった。しかも女性の視線からするとどうやら彼女が用事があるのはピンポイントで私だけのようだ。

「はい」

 まさに先生に声をかけられたかのごとく緊張して女性を見つめると、彼女も私の顔をじっと覗き込むようにして見つめてきた。

「ちょっとごめんなさいね」

 続けて女性の起こした行動に私は心臓が跳ね上がる。彼女は私の顔に手を添えると、目の下に親指をやり皮膚を引っ張ったのだ。俗に言うあっかんべーの状態だ。

「あなた生理中?」

「え? い、いえ。違いますけど!?」

 あまりにもナチュラルに尋ねられ、私は戸惑いながらも上擦った声で正直に答えた。いったい、なんだというの。

 質問内容にしたって、異性である穂高の前でされるには恥ずかしすぎる。

「ちゃんと月経は来てる? 止まってない?」

 なのに彼女は空気を読んでくれない。私も私で彼女の先生らしい厳しさに下手に逆らえなかった。

「今のところ……」

 蚊の鳴くような声で答えると女性はようやく私から手を離す。

「そう。それにしてもわりと重症な貧血ね。よかったらこれ、あげるわ」

 話しながら彼女は割烹着のポケットに手を突っ込み、なにやら連なっている粉薬のようなものをこちらに差し出してきた。

「それ鉄分を増やす薬だから飲みなさい。この状況なら仕方ないかもしれないけど、自分を大事にね」

 言い終えると女性は、さっさとその場を後にする。私は呆然としてしばらく動けなかった。