バイバイまたね、クドリャフカ

 もっと早く、穂高とこんな話ができていたらよかった。

 心の中で呟き、これがまた後悔にも似た感情で私は慌てて考えを振り払う。

 逆だ。今だから彼とこんな話ができたんだ。後悔はしない。するなら感謝だ。

 いつのまにか彼も私の手を握り返してくれていた。そして、せっかくなので谷口商店に寄ってみようという話になる。

 なにか飲み物か食べ物などがあれば補充しておきたいし。

 ところが谷口商店があると思われるおおよその場所まで来たものの、少し周りが入り組んでいて見つけられなかった。派手な店構えでもないだろうし。

 どうしようかと迷っていると、反対側からこちらにやってきた女性の存在に気づく。

「あの、すみません。このへんに『谷口商店』ってありますか?」

 穂高が声をかける。おそらくこの周辺に住んでいるのか、彼女はとくに大きな荷物も持っていない。

 五十代くらいで、白髪交じりの髪は肩につかないくらいで切りそろえられている。黒縁の眼鏡をかけ真面目そうな印象だった。学校の先生のような雰囲気がある。

 ただ、エプロンというより割烹着のようなものを来ていた。それが妙に似合っているのだから、ついまじまじと見つめてしまう。

 女性はすっと腕を伸ばした。

「こっちの道をまっすぐ行ってしばらくすると小さな四つ角になるの。そこを左に曲がって、さらに細い道を入ると看板が見えてくるわ」

 教え方もよどみがなくはっきりしている。声も凛としていた。

「ありがとうございます」

 穂高が踵を返すので私も女性に頭を下げて、彼に続こうとする。